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胃がん撲滅に向けた長岡市の取り組み

[2019.06.21]

1982年オーストラリアのウォーレンとマーシャルは、胃粘膜から新しい細菌ヘリコバクタ・ピロリの分離培養に成功し、それまで胃には塩酸が存在するため、細菌は存在しないと長い間考えられてきた常識を覆した。そして驚くことは、ピロリ菌が胃・十二指腸潰瘍を起こし、更に胃がんをも引き起こしてくることです。私のように、攻撃因子、防御因子の天秤の理論で潰瘍が起きてくるとの説を教えられた世代にとってはまさに青天の霹靂でした。

ピロリ菌の感染は汚染された食物、飲料水の経口摂取によりおこり4~5歳頃までに感染が成立する。感染後、ピロリ感染胃炎から消化性潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃ポリープ、ITPなどが発生し、そして萎縮性胃炎から胃癌へと進展していく。ピロリ菌感染者の中から、毎年3~5%の人に胃・十二指腸潰瘍が発生し、毎年0.4~0.5%の人に胃がんが発生すると推測されている。最近の日本と韓国の疫学調査より胃がんの原因の95%以上がピロリ菌による事が確実となった。つまり胃がんは肝がんと同様、感染症に起因したがんでした。

胃がんの原因がピロリ菌によるものと判明した以上、胃がんに対する対応はすべての段階においてピロリ菌を中心に考えてゆけば良いことになります。胃がんの撲滅を考えるならピロリ菌感染の根絶が必須となり、また胃がん検診を進めるうえでは、まずピロリ菌感染の有無により分け、陽性者に対する除菌と胃がん検診を同時に進めていくことが基本になると思われます。現在胃がん検診は、国が認める胃X線検診と内視鏡検診が主流ですが、ピロリ菌感染の有無に関係なく行われており、甚だ不合理です。

一方、厚労省三木班が推進するABC検診は、ピロリ菌感染の有無をピロリ抗体、萎縮性胃炎の有無を血清ペプシノゲンⅠ/Ⅱ(PG法)で行い、胃がんの発生リスクに応じた検診を行っています。 A群:ピロリ(-)PG法(―):基本的には検診不要 B群:ピロリ(+)PG法(―):3年に一回の内視鏡検診と除菌 C群:ピロリ(+)PG法(+):2年に一回の内視鏡検診と除菌 D群:ピロリ(-)PG法(+):毎年の内視鏡検診

次にABC検診の利点についてですが、①A群、特に若年者では検診が不要となる②一次検診が採血で済み手軽に検診を受けられる③胃がん検診の精度が上がる(発見率がこれまでのX線法の3~4倍に)④放射線被ばくを減らせる(一律に40歳以上の人は毎年胃X線検査を受けるようという国の方針の見直しが必要)⑤ピロリ除菌により胃がんの発生を1/3程度に軽減または発症を遅らせる⑥胃がん患者の減により医療費の減少などがあげられます。また今年2月21日ピロリ感染胃炎に対する除菌が保険適応となりました。この事は国もいずれピロリ菌感染を中心に据えた胃がん対策に踏み出す予兆なのではないでしょうか。

これからの胃がん対策は、胃がんの撲滅を目指すことを大前提とし、中高年者に対しては、ABC検診を行い、胃がんの早期発見とピロリ菌除菌により胃がん発生のリスクを軽減させること。また20歳前後の若年者に対しては、ピロリ菌抗体を測定し陽性者の除菌を行い、同世代の胃がん発生を0にすること。この2つの施策を同時に進める事が必要と考えます。

長岡市では、26年度よりのABC検診導入に向けて、議会、行政と協議を行い、すでに行政を交えた準備委員会を立ち上げています。また若年者に対する除菌については、いろんなハードルがあり、すぐに実現は難しいようですが、今後も検討を続けていきます。胃がんの撲滅に向けた大きな一歩を踏み出せることを願っております。

                    2014.4 新潟県医師会雑誌

                           郡市医師会長の声

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