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乳幼児のテレビ・ビデオ長時間視聴は危険です

[2004.04.01]

提言

最近、小児科医や発達の専門家から、言語発達や社会性の遅れがある幼児の中に、テレビ・ビデオ(以下、テレビと記す)を長時間視聴しており、テレビ視聴を止めると改善が見られる例があることが報告され、テレビの長時間視聴が発達に悪い影響を及ぼす可能性が指摘されています。日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会では、乳幼児のテレビ視聴の発達への影響を検討するため、3地域の1歳6ケ月健診対象児計1900名について調査を行い、内外の知見と併せて検討しました。この結果、長時間視聴は1歳6ケ月時点における意味のある言葉(有意語)の出現の遅れと関係があること、特に日常やテレビ視聴時に親子の会話が少ない家庭の長時間視聴児で有意語出現が遅れる率が高いこと、このようなテレビの影響にほとんどの親が気づいていないことが示されました。現代社会は少子・核家族化、携帯メールやインターネットの普及などによって、家庭内でも会話が少なくなり言語発達に問題をもつ子どもの増加が予想されます。乳幼児期は言語発達に重要な時期であり、テレビ視聴の影響について、親も社会も認識して対処していく必要があり、下記を提言します。

 

提言

1.2歳以下の子どもには、テレビ・ビデオを長時間見せないようにしましょう。

内容や見方によらず、長時間視聴児は言語発達が遅れる危険性が高まります。

2.テレビはつけっぱなしにせず、見たら消しましょう。

3.乳幼児にテレビ・ビデオを一人で見せないようにしましょう。

見せるときは親も一緒に歌ったり、子どもの問いかけに応えることが大切です。

4.授乳中や食事中はテレビをつけないようにしましょう。

5.乳幼児にもテレビの適切な使い方を身につけさせましょう。

見おわったら消すこと.ビデオは続けて反復視聴しないこと。

6.子ども部屋にはテレビ・ビデオを置かないようにしましょう。

 

解説

1.小児科医、発達専門家からの相次ぐ指摘

言葉の遅れ、表情が乏しい、親と視線を合わせないなどの症状を抱えて受診する幼児の中に、テレビ・ビデオ長時間視聴児で、視聴を止めると症状が改善する一群があることが、最近、相次いで報告されている。生後早期からテレビを見ていた子どもが多いが、幼児期になってからテレビに子守されたり、ビデオの反復視聴で半年のうちに症状が進んだ例もあり、長時間視聴の影響が危惧されている。

 

2.現代の乳幼児家庭のテレビ環境

乳幼児の発達へのテレビの影響を調べるため、2003年に3地域(首都、中核市、農村地区)の1歳6ケ月健診対象児の親に、子どものテレビとの関わりと発達に関する質問紙調査(無記名式)への協力を依頼し、回答を得た17~19ケ月児1900名について解析した(回収率は地域によって異なり、平均75.2%)。1地域は15年前にほぼ同一の調査を行っている。

 

15年前に比べ、核家族化、テレビに親しんで育った親の増加、ビデオや大型テレビの普及、携帯電話やインターネットなどの出現を背景に、家庭や子どものテレビとの関わりは長時間と短時間への2極化が示され、見せ方にも多様化傾向が見られた。テレビ視聴時に親が子どもと一緒に歌ったり話しかけ、子どもが親に質問する家庭が増えていたが、長時間一人だけで見せている家庭もあった。他の児に比べ、有意語出現の遅れが高率であった(1.3倍)。また、子どもの近くでテレビが8時間以上ついている家庭(長時間視聴家庭)の子どもで有意語出現の遅れの率が高かった。特に、長時間視聴家庭における長時間視聴児の有意語出現の遅れの率は短時間視聴家庭の子どもの2倍であった。地域によっては、長時間視聴児に言語発達全般の遅れが認められた。

 

子どもが4時間以上テレビを見ている家庭、あるいはテレビが8時間以上ついている家庭では、食事中も食事以外のときも子どもにテレビを自由に見せている家庭が多かった。このような長時間視聴家庭では親の生活がテレビに偏って親子の問わりの時間や他の活動が少なく、長時間視聴児は子ども自身がテレビを見たがったり自分で操作したり,消すと怒るなどテレビ好きで、遊びがテレビに偏り易い傾向があると推察された。

 

3.児のテレビ視聴時の親の関わりの重要性

テレビを親と一緒に見ている時、乳幼児は好きなものが登場すると共感を求めたり、動作のまねをしながら親の顔をみたり、指さして質問するなど親によく働きかけ、テレビを契機とした親子のコミュニケーションが生まれる。テレビを見ながら、親が一緒に歌ったり内容について話す家庭の子どもは視聴時の反応行動が活発で、テレビで見た話の絵本を喜ぶなど記憶に残っていることが示唆された。しかし、テレビ視聴時には、例え親子で一緒に見ていても、親の話しかけや親子が向き合って長く会話することが少ない。一般に大人はテレビがついていると頻繁にはしゃべらないし、相手の顔をみて話すことも少ないためであろう。従って、テレビが長時間ついていると会話が減少して言語発達の遅れを招き易い。事実、長時間視聴児は視聴時に親が説明するなどの関わりがあっても、視聴時に指さして質問するなどの親への働きかけは減少しないが、有意語の遅れは多かった。視聴時に親が関わっても長時間の視聴は児に悪影響を及ぼす。視聴時の親の関わりが少ない長時間視聴児では有意語出現が遅れる率が顕著に高く、そうでない児の2.7倍に達していた。有意語の他、言語理解、社会性、運動能力にも遅れ傾向がみられた。従って、乳幼児にテレビ・ビデオを一人で見せてはいけない。

 

4.テレビを見せ始める時から、見たら消す習慣を

生後早期から見せ始めた子どもの方がテレビやビデオを見たがったり、自分でつけて見る率が高く、長時間視聴児が多かった。見せ始めるときから決まりを決めて見る習慣を身につけさせ、1番組見たら消す。ビデオを巻き戻して反復視聴を続けないようにすることが大切である。

 

5.子どもの言語能力は一方的に聞くだけでは発達しないことを認識すべきである

テレビの健康影響について多くの親は視力への影響を心配しているが、言語発達への影響を心配している親は少なく、しろ言葉や知識を教えるために見せている親もいた。しかし、乳幼児の言語能力は大人との双方向の関わりの中で発達する。赤ちゃんは2ケ月頃から機嫌が良い時によく発声するようになり、3ケ月頃には人の怒りや優しい声などを区別して反応する。やがて暗譜(言葉を話す前段階の声)を発するようになり、8~9ケ月では聞き慣れた特定の言葉に反応したり、何か欲しい時に声を出して大人を呼んだりするようになる。この段階でも人との関わりが少ないと声の頻度や種類が少ないことが知られている。10ケ月頃からは大人の行動やものと言葉とを結びつけて理解するようになって言語理解が進み、ものと自分の発する音とも結びついてくる。1歳6ケ月頃から大人の言葉を模倣するようになって語彙が急激に増加し、2歳になる頃から2語文を話すようになり、言語生活が確立していく。実体験を通して言葉を理解すること、子どもに分かり易く話しかけ、子どもの話をゆっくり聞いて応えることが大切である。今回の調査結果は映像メディアからの一方的な働きかけだけでは子どもの言語能力が発達しないことを裏付けている。

 

6.米国での対応

米国の小児科学会は、テレビや映画、ビデオ、テレビ・コンピュータゲーム、インターネットなどの映像メディアが、子どもたちの健康障害を引き起こす危険性を持っていることを指摘し、メディア教育の重要性について勧告を出した。特に、子どもの脳が発達する重要な時期に人と関わりをもつ必要があることを重視し、「小児科医は、親たちが2歳以下の子どもにテレビを見せないよう働きかけるべきである」としている。また、小児科医に対して、親に子どものメディア歴(メディアの使用時間や見せ方)を質問し、助言するよう勧めている。

 

7.臨床現場の危倶と親のテレビ観

長時間にわたって親の関わりがなく視聴している子どもには有意語出現の遅れの他、言語理解や社会性の遅れ傾向が見られ、親への働きかけが少ない様子が示された。この状態が続けば、親子のコミュニケーションが減退し、ますます親よりテレビへの関心が強まり、言語発達や社会性の遅れが進行して受診に至るのであろう。多くの小児科医がこのような子ども達の臨床経験からテレビと言葉遅れとの関連性を疑い、乳幼児のテレビ視聴に警告を発してきた。今回の調査でこのような危険性がある(子どもが4時間以上放置されてテレビを見ている)家庭は1.6%存在した。他方、ほとんどの親はテレビを否定的には考えていなかった。多くの家庭は決まりを決めて親子で一緒にテレビを見ており、聴時の子どもの反応や親に共感を求める可愛さ、親子の情緒的コミュニケーションの体験を肯定的に記載していた。しかし、乳幼児のテレビ・ビデオ長時間視聴には危険が伴うことを大人は認識すべきである。テレビ利用に際しては長時間視聴の制限と視聴時の親の関わりの重要性に留意するよう提言する。なお、乳幼児期のテレビ視聴の影響に関する研究は十分でない。今回示された言語発達への影響以外にも、さらに重大な悪影響が証明される可能性もあり、今後も検討を進める必要がある。

 

8.小児科医,小児の健康に携わる方へ

a.子どもと家庭のテレビ・ビデオ環境を聞き、利用法を助言して下さい。

b.長時間視聴の子どもからテレビ・ビデオを突然遠ざけることは難しいので、具体的方法を助言して下さい。

・テレビにカバーを掛け、ビデオソフトはしまっておく

・コンセントからはずす

・タイムスイッチの利用

テレビの無いところで遊ぶ時間を長くする

子どもが部屋に入ってきた時にテレビがついていないようにする(起きたとき、外出から戻ったときなど)

c.子どもに語りかけ、子どもからの働きかけに応えることの重要性を説明して下さい。

 

日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
谷村雅子  高橋香代  片岡直樹 冨田和巳  田辺功  安田正 杉原茂孝  清野佳紀

 

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