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釣りの魅力

[1992.10.29]

硬調の竿を満月にたわめグッとこらえる。これ以上下流へは下がれなし。鮎との最後のやりとりが続く。鮎が反転して上流に頭を向ける。この瞬間、竿を思い切り天井へ差し上げる。鮎が水を切り踊りながら低空を飛翔し、たもの中に消える。その鮎を手にしたとき、全身からドッと安堵感が湧き出てきた。秋風の棚引く川面を眺めていると、金星を胸に抱いた若鮎が赤錆びた婚姻色を腹に落ちてゆく姿が思い浮かぶ。来年はどんな鮎に会えるのか。

釣りの魅力はなんだろうと時々考えることがある。釣りキチ達の答えは、「釣りを経験したことのない人にはわからない世界」「釣り場には電話はないし、うるさく言う人はいないし・・・・・」「大漁を夢見ながらの仕掛け作りも楽しいし・・・」その釣り人の経験、生活基盤に応じて違った答えが返ってくる。釣りの最大の魅力は、なんと云っても魚のかかった瞬間のようだ。この瞬間の表現も様々で、「雷に打たれたような・・・」「頭の中が真っ白になるような・・・」「胸をドンと打たれるようだ」「ある種の性的感覚に似ている」この瞬間が如何にすばらしいかは、大物を釣った人や、初めてその魚を釣った人が、手を震わせ膝をガクガクさせ呆然自失に陥っている姿を見てもわかることである。釣りは大人を子どもの世界に引き戻してくれる。川や海や大自然の中で、大の大人が目を輝かせ、子どものようにはしゃぎ、まだ釣ってもいない大物の話を平気でしてしまう。なんて楽しいのだろう。

 

最後の、開上健の「オーパー」の中にあった中国の諺を紹介します

 

一時間、幸せになりたかったら 酒を飲みなさい。

三日間、幸せになりたかったら 結婚しなさい。

八日間、幸せになりたかったら 豚を殺して食べなさい。

永遠に、幸せになりたかったら 釣りを覚えなさい。

 

(1992.10 新潟県医師会雑誌「喫茶室」)

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