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目線を同じくして、楽しく付き合う

[2019.06.21]

マイスキップ2013.4月号トップインタビュー

太田 裕先生

 

長岡のお生まれですか?

 

 いえ、本家は青森県の十和田にあります。私の親父は軍医だったのですが、戦後、食糧難で青森に戻り、しばらく開業していた頃、私が生まれました。親父は旧制弘前高等学校を出て、大阪大学医学部を卒業しました。新潟とのご縁は、親父のお袋さんが新発田出身です。しばらくして、親父は博士号を取得しようと、普通なら大阪大学に戻るところですが、新潟で途中下車したら、「この街もいいな」と、そのまま新潟大学を選んだそうです(笑)。私は新潟大学の付属新潟小学校に一年生まで通っていましたが、親父が長岡中央綜合病院の初代小児科医で赴任することになり、長岡に移りました。ですから、私は小学二年生の時に長岡に来て、長岡高校、弘前大学を出て、ここで開業している、といったところです(笑)。

 

医学を進むきっかけは?

 

僕は四人姉兄の末っ子で、誰も親父の仕事を継がなかったので、私が(笑)。うちの息子二人も、じつは小児科医で、ひとりは岐阜県大垣市に、もうひとりは今、立川病院にいます。こどもはいいですよ、正直だしね。目線を同じくして、楽しく付き合う、これが一番大事じゃないのかな。若いお母さん方は変わってきたと言われますが、子を持つ親は、基本的に変わらないと思います。親も子どもを育てながら成長するというのが人間ですから、そういう意味で、小児科医の仕事は面白いと思いますね。

私は性格的には外科系だと思いましたが、結果的には小児科になり小児がんを専攻しました。昭和52、3年頃までは、小児がんと診断されると、ほぼ百%が亡くなるような時代でしたが、私が開業する頃には急速に手術や放射線療法、化学療法などの治療方法が進化し、半分以上が助かるようになりました。治療計画を戦略的に立てていくことが大事ですね。

 

医師会とは、どんな組織ですか?

 

長岡医師会では42歳の時に理事になり、また49歳の時、新潟県小児科医会の会長となり6年間勤めました。それまで、70代前後の方が会長を務めていましたが、40代というのは異例でしたね。その流れで、三年前に長岡医師会会長を受けしました。

「日本医師会」というのは、開業医や勤務医、研修医など全国の医師約16万6千人で構成する社団法人で、医療や保健、福祉の各施策を検討し、提言する組織です。日本医師会・日本歯科医師会・日本薬剤師会を合わせて三師会と呼ばれています。

日本医師会の下部組織に47の都道府県医師会があり、更に全国約920の郡市区医師会があって、「長岡医師会」はそのひとつです。長岡医師会の設立は大正9年で、初代会長は草間医院の草間俊三先生。私でちょうど、二十代目になるようです。

 

日本医師会の初代会長は「日本の細菌学の父」といわれる北里柴三郎です。北里の伝染病研究所の設立を支援したのは、河井継之助の最期を看取った長岡藩医の長谷川泰です。彼は「済生学舎」(日本医科大学の前身)を創立し、野口英世など多くの医学者を輩出しました。北里と泰の共通項は、予防医学の先駆者であり、明治政府(薩長)から冷遇されたことですね。もともと北里は東大出身で官側なのですが、「脚気は脚気菌によるものだ」という恩師の説を否定したことで対峙するんです。そんな彼を擁護したのが、長谷川泰や福沢諭吉で、そこから関係が深まったようです。

 

長岡藩というのは学術振興の盛んなところで、中でも九代藩主・牧野忠精公が老中の要職にあって、外交を担当したことにより、長岡藩士たちは海外の学問や文化に関心をもったようです。文化五年(一八〇八)に藩校「祟徳館」を創立し、嘉永六年(一八五三)に「済生館」という藩立医学校が建てられます。長谷川泰が「済生学舎」と名付けたのは、この「済生館」を意識したのでしょう。また、天保三年(一八三二)には、人体解剖(腑分け)も行われ、解剖図も残っており、長岡藩の医術レベルが高かったことを物語っています。

 

日本医師会の幹部は長年、東京周辺の者に限られていて、長岡出身者が入るなど考えられなかったようですが、昭和三十年に丸山医院の丸山直友先生が日本医師会の副会長になられています。ご先祖は漢方医で、越後国に関する最初の百科事典といわれる『越後名寄』を書かれています。昨年亡くなられ、画家でもあった正三先生は丸山医院の八代目でした。

 

長岡医師会は、どんな活動をされているのですか?

 

私たちは「社会の為にますます貢献する医師であり、医師会であり」という標語を理念に活動しています。医師というのは社会貢献を第一とするので、いまさらと思うけど、医療と社会貢献とは、ニュアンスが違います。そのことを医師側が自覚しようということでやっています。

阪神・淡路大震災を教訓に、DMAT(※1)(ディーマット)という災害派遣医療チームが平成17年、厚生労働省により設置されました。地域医師会の全てを束ねている日本医師会でもJMAT(※2)(ジェイマット)という災害医療チームの編成を検討していた矢先に、東日本大震災が発生しました。それですぐ、JMATの派遣を決定し、43の都道府県医師会(被災した岩手・宮城・福島・茨城を除く)に派遣要請が出されました。

DMATでは、発災後72時間までの急性期の活動を前提とするものですが、東日本の被害があまりにも広範・甚大であったため、活動は延長されたものの、3月22日で終了しました。JMATは、それを引き継いで、主に避難所や救護所における医療を担当しました。医療チームは医師、看護師、薬剤師、事務員など4名を基本に編成しますが、長岡からも4チームを出し、主に石巻の地区と日赤病院へ派遣されました。

 

中越地震の時、長岡医師会は会津医師会と薩摩の鹿児島県医師会から義援金を頂きました。そうしたご恩もあり、長岡医師会・会員に義援金を呼びかけました。普段、医者は財布のひもが固い人が多いのですが(笑)、約千三百万円が集まったのですから、さすがだと思いますた。それを、被害のあった医師会全部と法医学教室に渡しました。法医学教室は死体の検案で駆り出され、補助金もなく、相当大変だったようです。

長岡医師会の会員は、A会員(開業医)130名とB会員 (勤務医)を入れて、410名ほどです。長岡は入会率が高く、三病院(長岡赤十字病院・長岡中央綜合病院・立川綜合病院)の先生方はほとんど入っていますね。

 

医師会に入会するメリットはなんでしょう?

 

安心して診療活動するための「医師賠償責任保険」や「医師国保」という独自の健康保険に加入できることは大きなメリットですね。その他、関連団体である医師協同組合の購買事業や保険が割引で利用できたり、医師信用組合の各種ローンが低金利で利用できたりします。

しかし、一番のメリットは、国民皆保険制度の下、国民に安全で良質の医療を提供するための主張や提言が、医師会を通じて行うことができるということです。

国民皆保険を守らなければ、「地獄の沙汰も金次第」となり、平等な医療が受けられなくなります。医療制度や医療保険制度のあり方を探究し、地域医療活動を進めていく上での行政との連携ができる団体は、医師会をおいてはありません。

 

今までにはなかったことですが、長岡医師会の三役と三病院院長とで病院長会議というのを年に二回やるようになって、病院間との交流が広がり、深まりました。さらに、二ヶ月に一回、救急懇談会というのがあって、救急受入病院と行政、警察、消防などが集まり、症例の検討などをやっていますが、コミュニケーションを図る上で、とても役立っています。顔の見える関係を各病院間でもつくっていくというのが、医療をいかにスムーズにしていくか、だと思いますね。

 

 

長岡はたらい回しもなく安心して暮らせる街だと思いますが、医療レベルはどうですか?。

 

間違いなく、全国のトップレベルです。だけど、医師数は少ないんです。「人口10万対医師数」(2006年調査)を見ると、全国平均217人に対し、新潟は185人で下位クラスですが、これがよく働くんですよ(笑)。医師が少ない分、ここは看護師が多いので、それで助けられているのかもしれません。

医療が充実しているかどうかは、救急医療をみればわかります。長岡の場合、救急車の搬送状況をみると、98.5%が長岡市内で処理されています。受け入れは三病院と長岡西病院がやっていますが、たらい回しなんてことは、全くありません。長岡に住んでいる人は、この医療レベルは当たり前だと思っているかもしれないけど、こんなすごい医療レベルはありません。さらに、三病院は民の経営ですから、税金を投入しないで、こんなに良い医療を提供している街はないです。だから、民の力というのは大事なんですね。

 

医師不足の解消方法をいろいろやっていますが、お金じゃないですね。「奥さんが住んでみたい、こどもを育ててみたいと思う街」をつくらなきゃ。街に魅力がなきゃ、人も医者も来ないですから。総合的に文化度が高くて、安心安全で住みやすい街づくりが大事ですね。

 

今後の目標など。

 

じつは、「ABC検診」というものがあります。採血して、ピロリ菌と胃の萎縮を調べれば、胃ガンのリスクが分かるという簡単で安価なガン検診です。今までのガン検診は早期発見を重点にやってきましたが、これからは、「子宮頚癌ワクチン」のように、ガンにならない治療もできるようになりました。胃ガンに対してはABC検診が大変有効で、ピロリ菌が見つかれば、五日間ほど除菌の薬を飲むだけで、胃ガンのリスクが三分の一になります。ところが、官(厚生労働省)がこのABC検診を認めないので県や市も動けず、普及しないでいます。

そこで、長岡医師会では検診費用を(負担?補助?)するかたちで、ABC検診を皆さんにお勧めしていこうと考えています。「社会の為にますます貢献する医師であり、医師会であり」ですから、身銭を切ってでも、といったところです(笑)。

 

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